
プロローグ
幼き出会い
「智、悪いけどお遣い頼んでいい?」
「ええっ?今?」
「今夜の夕飯、コロッケなんだけど、卵が切れちゃってて。そこのスーパーで買ってきて欲しいんだけど。」
「今からドラゴンボール始まるのにぃ・・・」
「ゴメンね。お母さん、他に沢山やることあるから、お願いよ。」
「ちぇっ・・・分かったよ。」
それは今から25年以上も昔の話。
俺は小学校2年生で、親は共働き。
パートと主婦業を掛け持ちしてた母ちゃんを助けようと、小さいながらに俺はお手伝いを必死に頑張ってた。
「はい、このお財布にお金入れてあるから、落とさないように気を付けるのよ。」
「はーい。」
お遣いと言っても、集合住宅のど真ん中にある、歩いて5分も掛からない場所にあるスーパーだ。
俺は楽しみにしていたアニメが終わらないうちに帰ってこようと、大急ぎでスーパーに向かった。
頼まれた卵を大事にレジに持っていき、渡された小さい小銭入れの中から代金を支払って買い物を無事に済ませた。
スーパーの正面玄関の真ん前に、小さい公園があって、付近の子供達がその公園の中で遊んでた。
滑り台で遊んでる子も居れば、ジャングルジムで遊んでる子、砂場で遊んでる子、
比較的幼稚園児くらいの小さい子供が多い。
ふと、俺の目の前を可愛い子猫が横切った。
俺はあんまりその猫が可愛いから、「おいでっ」って声を掛けた。
すると、その子猫が俺の足にベッタリとすり寄って来るから、俺は思わずその子猫を抱き上げて、公園の中へと入った。
連れて帰りたいけど、母ちゃんに怒られるよなぁ・・・
多分、腹が減ってるんだろう。俺が買い物袋を提げてるから、餌をくれると勘違いしてるんだ。
ベンチに腰かけて子猫の頭を撫でていると、風船を大事そうに握りしめた男の子が、中年の男の人に手を引かれて
公園から連れ去られそうになっていた。
「やだっ!離して!」
「おじちゃんがお菓子買ってあげるから、怖がらなくてもいいから。」
「やだっ!」
俺は子供ながらに、その様子が普通でないことに気が付いた。
「おじさん、その子を離して!」
「なんだ、坊主、おまえ誰だ?」
「その子は僕の弟だよ。あ、お母さんがスーパーに居るから嘘だと思うなら、こっち来て。」
「な、なんだ・・・親も一緒かよ。」
中年の怪しい男は、チッと舌打ちしてその子の手を離して、そそくさと立ち去った。
俺は直ぐにその子の手を引いた。
「だいじょうぶか?」
「う、うん。」
「君、どこから来たの?お母さんは?」
「あっち。」
そう言ってスーパーを指差した。
「勝手に一人でウロウロしちゃダメだよ。さっきみたいに怖いおじさんが一杯いるんだよ。」
「うん。その猫、お兄ちゃんちの?」
「えっ?」
「その猫、お兄ちゃんが飼ってるの?」
「あ・・・ううん、そうじゃないけど。」
「可愛いね。」
そう言ってその子は子猫の頭を撫でた。
そのあどけない表情は、くるっと愛くるしい瞳でほんのりと薄茶色。
左手には風船をシッカリと握りしめてる。
「僕にも抱っこさせて。」
「え?あ、うん。いいよ。」
ゆっくりとその子に子猫を抱かせると、その左手に握ってた風船がふわりとその手を離れて宙に浮いた。
「あっ・・・」
風船は木の枝に引っ掛かってかろうじてそこに留まった。
「うわぁぁぁん・・・ぼくの風船がぁぁぁぁ・・・」
その子は子猫どころじゃなくなり、立ち上がると風船を指差して泣き始めた。
子猫は驚いて、あっという間に何処かへ走り去った。
「あーあ、どうして風船離しちゃったりするの?」
「だっ、だって・・・うううっ・・・」
「仕方ないな・・・ちょっとこれ持ってて。」
俺は、その子に買い物袋を手渡すと、その風船が引っ掛かった木によじ登った。
とはいえ、引っ掛かってるのは枝の先端部分で、ある程度の高さまで登ったものの
なかなか手を伸ばすも風船には届かない。
泣きじゃくる男の子を見たら、なんとかして取ってあげたくて、俺は必死で風船の紐に手を伸ばした。
「うわぁぁぁっ!」
当然ながら、俺は木から転落した。
でも、俺の右手にはシッカリと風船が握られてた。
「兄ちゃん!」
「痛ってぇ・・・」
「だいじょうぶ?」
大丈夫な訳が無いんだけど、俺は小さい子の前で強がって見せた。
「平気だよ。ほら、風船・・・」
「ありがとう。」
「へへ。どういたしまして。」
俺はめちゃくちゃ痛いのを我慢して立ち上がる。
「カズ~何してるの?帰るわよーっ」
その子のお母さんが公園の入り口から彼を呼んだ。
カズっていうんだ・・・
「はぁい!・・・お兄ちゃん、ありがとう。またね。」
「うん。じゃあね・・・」
そのカズって子は、一目散にお母さんの所に走ってった。
だけど、途中で急に振り返り、全速力で再び俺の所に戻って来た。
「な、何?」
「兄ちゃん、またあえる?」
「え?」
「また会える?」
「あ、うん・・・」
「おなまえおしえて。」
「えっ・・・あ、さとし・・・」
「さとし、またね。」
それが、俺とカズの最初の出会いだった。
だけど、その後2人は二度とそこで顔を合わせる事は無かった。
家に帰り着くと、母ちゃんに何処まで買い物に行ってたんだと、こっぴどく叱られた。
それから、木から落下した時に痛めた足首は全治2週間の捻挫で、
松葉杖ついて通学しなくてはならない程の怪我で、そっちも理由をちゃんと話さないから母ちゃんに叱られた。
つづく