
第3章
争奪戦②
「そうだ。なんなら、本当にこれから旅行行きます?俺、全然時間空いてますよ?」
「え?」
「だって、あの子に嘘付いてもこの界隈をウロウロされたりしたら一緒じゃない?」
「でも・・・」
「それとも俺のアパートにもう1泊します?」
「い、いや、それは幾らなんでも。」
「そうだよね。うちには客用のお布団が無いから、また一緒にあの狭いベッドってことになるものね。」
「何処かカプセルホテルにでも泊まろうかな。」
「そんなのお金が勿体ないですよ。どうせあなた4連休なんでしょ?」
「実家に戻る。」
「そんなに俺と行くの嫌?」
なんか、すげぇ可愛い顔してそんなこと言うから、不思議と嫌とも言えなくなる。
「何処か行きたいところあるの?」
「そうだなぁ。温泉とかゆっくり入りたいよね。」
「温泉かぁ。いいな・・・」
「はい、それじゃ温泉に決まりね。俺、宿の手配するからあなたは本当に旅行の支度して。」
「わ、分かった。」
「あ、それからさ、あの人何とかしたいのなら、俺とあなたは付き合ってることにした方がいいかもよ。そこまでしないと諦めてくれないと思う。まぁ、そこまでしたから諦めるかどうかも分からないけどね。」
「つ、付き合ってるって・・・」
「お芝居だよ。お芝居。」
芝居ねえ・・・。奈緒ちゃんも俺を自分のペースに巻き込むタイプだけど、ニノは更に上をいってる気がする。
「あ、もしもし?○○温泉ですか?今夜お部屋空いてます?・・・あ、そうですか。いや、大丈夫です。それ予約お願いします。・・・大野です。それじゃ後程伺いますので。」
ニノは早々と何処かの温泉宿の宿泊の手配をした。
「あ、空いてたか?」
「うん。残り一部屋だった。ギリギリセーフだよ。良かったぁ。」
「え?一部屋?部屋、別々じゃないの?」
「何で?」
「何でって、可笑しくないか?」
「だから何が?別々で宿泊代出す方が勿体ないよ。男同士なんだから普通、同じ部屋で問題ないでしょ?」
「そ、そうかなぁ」
「そうですよ。あ、用意出来ましたか?」
「う、うん。」
「それじゃ、早速出掛けましょう。早く出発しないと日が暮れちゃう。あの子追い帰さないとね。」
「何処まで行くの?」
「箱根。あんまり遠くだと疲れるからね。」
温泉、確かに今の時期最高だよな。だけど、俺は昨夜の記憶もまだよく思い出せないでいて、ニノが言った事を100%信用してるわけじゃないから、ちょっと二晩も同じ部屋に泊るっていうところに戸惑いがある。まあ、ニノが自分から行きたいと言ってるんだから、俺が変に意識する方がややこしい話になる。ここは余計なことを考えないで、純粋に温泉を楽しむことにしよう。
「奈緒ちゃん、悪いけど俺達そろそろ出掛けるんで。」
「あ・・・はい。」
「ゴメンね。急がせちゃったね。」
「あの、どちらに行かれるんですか?」
「箱根の温泉だよ。あぁー久し振りだから楽しみだね。おーのさん。」
「う、うん。」
「いいなぁ・・・」
「奈緒さんも、彼氏と行ったら?せっかく4連休なのに何処にも行かないの?」
「行かないからここに来てるんです!いけませんか?」
「えっ、べつにいけなくはないけど。彼氏に構って貰えないのかなぁと思って。」
「に、ニノ。」
「彼氏、彼氏って煩いな。大体あなただって、彼女に構って貰えないから先生を引っ張り回してるんじゃない。」
「ええっ?あ、俺は智とは付き合ってますから。ね、智?」
「な、なんですって?先生、本当なの?」
「えっ、あっ・・・その、うん。」
「先生?確かにその人、可愛らしい顔立ちしてるけど、男ですよ?」
「好きなんだから、女も男も関係ないよね?」
「うっ、うん。」
「からかわれてるんですよ。目を覚まして下さい。先生!」
「ゴメン、急がなきゃ。ほら、智、行かないと。」
ニノが奈緒ちゃんの背中を押して事務所から外へと追いやった。
「ゴメンね。奈緒ちゃん、そういう事だから・・・」
「あ、あたしはそんなの絶対に信じないから!」
俺達は興奮気味に叫んでる奈緒ちゃんを残して、車に乗り込んだ。
「あの子を振り返っちゃ駄目だよ。おーのさん。」
「う、うん。分かってる。」
「それじゃ、本当に行きますか。」
そう言ってニノと俺は温泉旅行へと出発した。
つづく