
第3章
争奪戦12
東京に戻って来た俺達は、急遽ニノのアパートへ荷物を取りにやって来た。
ニノは、押し入れから旅行カバンを取り出すと、次々に着替えとか日用品とかを詰め込み始めた。
「何かおいらも手伝うことある?」
「あ、大丈夫だからあなたはそっちでゆっくりしといていいですよ。」
「何かあったら、遠慮せずに言ってくれ。」
「あー、そうだ。どのくらい俺はあなたの所に行ってたら良いのかな?」
「ええ?」
「だって、水道や電気をそのままにしておくと、基本料は払わなきゃなんないわけだし。」
「仮におばさんが信用してくれても、その後ちょくちょく来られるとマズいのか。」
「まぁ、そこは考えても仕方ないですよね。様子見ながらってことで。」
ホントのところは、箱根から東京まで毎日おばさんも通ってくるわけじゃないだろうし、何もおいらの家に連日泊らなくてもっては思うけど、抜き打ちで突然来られたりしたら大変だから、やっぱりどうしても半分引っ越しみたいな話になってしまうのはしょうがない。
「とりあえず、適当に荷物詰めました。足りない物はまた俺が自分で取りに戻ればいいことだからね。」
「うん。それじゃうちに戻る?」
「はい。戻りましょう。」
おいらはニノの荷物を抱えるのを手伝って、車の後部座席に積み込んだ。それから何処にも寄らずに真っ直ぐおいらの自宅へと向かった。
部屋に戻って荷物を下ろすと、早速ニノが荷解きを始めた。
「もう、運転で疲れたでしょ?そんなの明日にすれば?」
「うん、でも必要な物だけは出しておきたいの。」
「それじゃあ、ちょっとおいらも向こうの部屋を片付けてくるよ。」
俺の寝室の隣に、物置にしてる6畳の部屋が一つ有るんだけど、そこを今後はニノに使って貰おうと考えた。ある程度荷物を片付けてからニノを呼んだ。
「ニノー、ちょっと来て。」
「はーい。今行くー。」
ニノがリビングから走って6畳の部屋にやって来た。
「ここ、これからニノが自由に使っていいよ。」
「へえ。ここは使ってないの?」
「うん。特にはね。押し入れに布団も入ってるから、勝手に使うといい。」
「寝室は一緒にしないと、母さんのことだからチェックが入るよ。」
「あ・・・枕をわざとらしく二つ並べときゃバレないだろ。」
「枕ねぇ・・・ま、それでもいいけど。俺はおーのさんと一緒がいいなぁ。」
「また変なことしても知らねえぞ。」
「変なことって?どんなこと?」
「な、何でもないよ///」
「あ、お揃いのスリッパとか置いておきましょうよ。それからペアの食器とかも。」
「そ、そこまでしなくても・・・」
「それは、うちの母さんじゃなくて、奈緒さんの対策としてやるべきです。」
「どうしてそれが対策なの?」
「女の子って、そういうのには敏感なんですよ。」
「へえ。そうなんだ?」
「これから雑貨屋にでも出掛けましょうか?」
「こ、これから?疲れてないの?」
「ぜーんぜん。ちょっと腰が辛いけど・・・」
そう言って、俺の顔をわざと下から覗き込むから、俺は温泉の出来事を思い出して真っ赤になった。
「うそ、うそ。冗談だよ。俺、全然疲れてなんかいませんよ。今夜の夕食の準備も有るし、ちょっとだけ買い物に行きましょうよ。冷蔵庫の中見たら何にも入って無かったよ。」
「う、うん・・・常備してるのは缶ビールと納豆とキムチくらいだからな。」
「そんなんじゃ、栄養たりませんよ!」
そうだ。夕飯の事は何も考えて無かった。おばさんはあんなふうにニノのこと言ってたけど、ニノはなかなか細かい事に気が付く。
そして、再びニノの運転で、自宅から10分程の場所にあるショッピングモールへ買い物に行った。
ニノはカートを押して、次々に必要な食材を籠の中に放り込んでいく。俺は後ろから買い物の荷物持ち。何処からどう見ても休日の夫婦のようだ。
次に雑貨の売り場をじっくりと見て回る。ニノがじっと足を留めて何か悩んでる。
「どうかした?」
「えっ?これ、欲しいけど、どうしようかなって思って悩んでる。」
「え?何?」
それは、アクセサリーコーナーでファッションリングがズラリと並んでいた。
「ゆ、指輪とか嵌めるの?」
「いや、俺は普段こういうのしないけど、念には念を入れておいた方がいいかなって・・・」
「え・・・あっ・・・」
ようやくその意味が俺にも分かった。
「うん。いいよ。おいらがそれ買ってあげる。好きなの選びなよ。」
「ホントに?いいの?」
ニノはめちゃくちゃ喜んで俺に向かって満面の笑みを見せた。
つづく