
第3章
争奪戦13
付き合ってる同士なら、ペアリングくらい持ってた方がリアリティ有っていいと思う。それはニノからの提案だった。
正直、今まで女の子にだって指輪なんかあげたこと無かったんだけど、俺なんかよりもニノは女性の気持ちが分かってるみたいだし、雑貨屋でみつけたリングなんてそこまで値段も張らないから何の抵抗もなくそういうことが言えたんだと思うけど、何よりも喜んでみせるニノの仕草がシャレになんないくらい可愛かったりするから、いま俺に物を強請るなら何でもホイホイ買ってあげちゃいそうで、自分でもちょっと怖くなる。
「おーのさんはどれがいい?」
「えっ・・・おいらはどれでもいいよ。ニノが気に入ったの買いなよ。」
「ちゃんと選びなよ。せっかく買うんだから。」
「うーん、買ってもおいらどうせこんなの嵌めないしな。」
「嵌めなきゃ駄目ですよ。」
「そ、そうなの?」
「女は細かい所に目が行くんです。奈緒さんにだって、十分疑われてますからね。ここまでキッチリやった方がいいんですよ。」
「そうかなぁ。」
「俺はうちの母さんよりも、奈緒さんの方が厄介だと思ってるから。」
「はぁ・・・おいらなんかのどこがいいんだろ?」
「すべてじゃない?」
「だって、彼女おいらのこと何も知んないのに。」
「知んない方がミステリアスで良かったりして。とにかく、あなたは彼女の気持ちを受け入れるつもりはないんだよね?」
「そんな上から言うつもりはないんだけど、彼女にはもっとおいらなんかより相応しい人居ると思う。」
「そこんとこ、ハッキリ聞いておかないとさ、こっちにだって覚悟ってもんがあるんだから。」
「え?覚悟?」
「そりゃそうだよ。これから俺はあの人と争奪戦になるわけだし。」
「そ、争奪戦?」
「そうですよ。生き残りバトルです。」
「んふふふ。なんかニノって面白いよね。」
「あっ、これなんかどう?シンプルだし、安もの臭くない。」
「じゃ、それにしようかな。」
「それじゃ俺も同じのにする。」
ようやく決まった揃いのリング。早速レジでお会計して、小さいし、失くすと困るからってその場で薬指に嵌めた。
俺に買って貰ったのがそんなに嬉しかったのか?ニノはそれから上機嫌で、帰りの車の中では鼻歌なんかも歌ってた。
そういうわけで、俺とニノの同棲生活はこんな感じで始まった。同棲と言っても、形としてってだけで、実際はルームシェアしてるのと何ら変わりない。俺達はあくまでも偽装カップル。
ただ、間違いなく俺はあの旅館の出来事から確実にニノを意識し始めてた。
それから二日後、連休が明けて朝から何時もの様に奈緒ちゃんが仕事にやって来た。
「おはようございまーす。」
「おはよ。あれ?まだ8時前だけど、奈緒さんって何時もこんなに朝早いの?」
「あ、あなた・・・何でここに居るんですか?」
「え、俺?俺は智と一緒に暮らすことになったの。これから宜しくね。」
「ええええっ?せ、先生は?」
「あ、まだ寝てる。」
「あなた、何が目的なの?」
「はぁ?」
「先生が優しくて断れないからって、自宅にまで転がり込むなんて・・・」
「あのさ、信じたくないのは分かるけど、こないだも言ったけど、俺達は付き合ってるの。」
「先生の事は騙せても、あたしの事は騙せないから!」
「まあ、いいよ。信じないなら信じないで。だけど悪いけど智のことは諦めてね。俺のだから・・・」
「お、俺のって・・・」
「あ、奈緒ちゃん、おはよう。」
「先生、これはどういう事ですか?」
「えっ、あ・・・ニノの事か。奈緒ちゃん、おいらニノと同棲始めたの。奈緒ちゃんもニノと仲良くやってよ。」
「私は認めませんから!」
「もう、奈緒さんってまるで智のお母さんだよね。別に君から認めて貰えなくても、痛くも痒くもないんだけど。」
「に、ニノ。お願いだから仲良くやってよ。」
「大体、智が優しくするからこの子が勘違いするんだよ。」
「勘違いしてるのはあなたの方でしょ?」
「ちょっ、ちょっと朝から勘弁してよぉ。」
まあ、想像出来なかったことではないけど、早速ニノと奈緒ちゃんのバトルが始まった。先が思いやられる。
つづく