
第3章
争奪戦14
カタカタ・・・カタカタカタ・・・
その後、俺と奈緒ちゃんは仕事場でいつも通り仕事を始めた。奈緒ちゃんのキーボード叩く音だけが部屋に響いてて、奈緒ちゃんは口を一文字に結んで何も喋らない。
「な、奈緒ちゃん?」
「何でしょうか?」
「えっ・・・あ、やっぱいいや。」
「二宮さんの事ですか?」
「あ、う、うん。」
「先生、私お相手の方が女性だとしたら、潔く諦めるかもしれません。だけど、あの人男性ですよ?どう考えても可笑しいですよね。」
「お、おかしいかな?」
「おかしいに決まってるじゃないですか。どんな事情が有るのかは知りませんけど、私、あの人に負けたなんて絶対に認めたくありません。」
「おいら、好きな人が居るってことは話したよね?」
「それがあの人だっていうんですか?」
「そ、そうだけど。」
「そんな作り話に私が引っ掛かるとでも?いい加減にして下さい。」
「ねえ、頼むよ。奈緒ちゃんもニノと仲良くやってよ。」
「お断りします。」
「奈緒ちゃん・・・」
「そうだ。お洗濯しなきゃ。」
「奈緒ちゃん、そういうの、ホント大丈夫だから。」
「えっ?」
「もう、全部ニノがやってくれるんだ。だから奈緒ちゃんは仕事に集中して。」
「そ、そんな。いいえ、私頂いたお仕事はちゃんと期限前に済ませてますからご心配なく。」
「な、奈緒ちゃん・・・」
奈緒ちゃんは、俺が止めるのも聞かずに再び自宅の扉を開けて入って行った。
「何?今仕事中でしょ?」
「あなたこそ何?」
「何って、見れば分かるでしょ?洗濯物干してるんだけど。」
「どいて。あたしがやるから。」
「は?いいよ。俺がやるんだから。」
「これは私の仕事みたいなものなの。勝手な事しないで!」
「ちょっと、いい加減にしろよ。あんた、何を人のプライベートにまで首突っ込んでるんだよ?そんなこと智に頼まれたわけでもないだろ?」
「あなたには関係ありません。」
「有るよ。だって俺は智の恋人だもの。」
「だから、何が目的で先生に近付いたの?」
「はぁ?」
「いいからどいて。私がやります。」
「やだ。どかない。あんたは仕事に戻りなよ。」
「どいてってば。」
ベランダで揉めてる二人を見つけて俺は慌てて間に割って入った。
「ちょっと、何やってんの?喧嘩とかやめてって!」
「だってこの人が勝手にあーだこーだ言って、俺に突っ掛かって来るんだ」
「お洗濯は私の仕事です。」
「奈緒ちゃん、洗濯も家事もおいら最初からお願いした覚えないよね?」
「ほら、やっぱそうじゃん。何勝手な事ばっか言ってんだよ。さっさと仕事に戻ればっ。」
「うううっ・・・酷い!」
奈緒ちゃんが突然泣き出してしまった。
「に、ニノもいい加減にしてくれ。」
「はぁ?あなたどっちの味方なの?」
「敵とか味方とかじゃないよ。どうして仲良く出来ないの?」
「はあ??」
「ゴメンね、奈緒ちゃん、何も泣かせようと思って言った訳じゃないんだ。でも、ここはニノに任せて仕事に戻ってくれるかな?」
奈緒ちゃんはようやく納得してくれて、仕事部屋に戻って行った。
「呆れた・・・」
「えっ?」
「呆れて開いた口が塞がりませんよ。」
「な、何で?」
「二兎を追うものは一兎をも得ずってことわざ知ってます?」
「な、何それ?」
「あなた、一体何がしたいんですか?」
「何がって・・・」
「あの子と公私キチンと別けたいんじゃないのかよ?」
「そ、そうだけど。」
「だったら、さっさと新しい人採用して、あの子をクビにしなよ。」
「く、クビって・・・」
「何で俺があの子と仲良くしなきゃならないんだよ?意味が分かんない。」
「と、とにかく奈緒ちゃんには自宅へ入らないように忠告しておくから。」
「当然です。言っておくけど、あなたがそんなんじゃ、あの子何時まで経っても何も変わらないと思うよ。優しくすればするほど勘違いされるんだ。」
「わ、分かってるよ。」
奈緒ちゃんは泣いちゃうし、ニノは凄い怒ってるし・・・こういうのを板挟みとでもいうのだろうか?
ニノの言う事も分からなくもないけど、俺は喧嘩や揉め事が苦手なだけなんだ。
だけど、新しい人材は確かに必要だ。俺はその後すぐに人材センターに電話をして、従業員の募集の手配をした。
つづく