
第3章
争奪戦15
ニノと奈緒ちゃんのバトルはその後の夕飯の買い物の時も勃発した。
「ちょっと、あなたまた卵買ってきた?それに、冷蔵庫の中が断然お肉だらけになってるんだけど。」
「え?おいらは買い物には出掛けてないけど・・・」
「あっ、それは今夜の先生のお夕飯にしようと思ってるんで。」
「またあんたかよ?」
「だって、先生が栄養失調にでもなったら大変だもの。お夕飯くらいまともなものを食べて貰わないと。」
「もしかして、今までは全部君がやってくれてたの?」
「そうよ。」
「じゃあ、これからは奈緒さんには家政婦さんとして働いて貰いましょうよ。そうすれば、俺も面倒な家事をしなくて済むし。」
「か、家政婦ですって?」
「だって、そんなに家事労働が好きならそっちの方が堂々と出来るから、俺は良いと思うけど?ねぇ、智。」
「そ、そんな、家政婦さんを雇うほどの余裕は無いよ。」
「あ~それは残念。ってことだから、奈緒さんは今後一切家の中の事に首を突っ込まないでくれるかな。」
「私、二宮さんに雇われてる訳じゃないんで、あなたの指示には従いません。」
「それじゃ、智の言うことなら聞くんだ?智からも言ってやったら?」
「う、うん・・・あのね、奈緒ちゃん、奈緒ちゃんの仕事はイラストのアシスタントだけで十分なんだよ。仕事が早くて時間が余ったら、好きな事しててもいいからさ。」
「好きな事しといて良いんだったら、先生のお夕飯の支度させて下さい!」
「もう、そこまで言うんなら、やらせてあげようよ。俺も準備する手間省けるし助かるよ。」
「あ、悪いけど二宮さんの分は作りませんから、ご自分でなさって下さい。」
「はあ?」
「な、奈緒ちゃん。」
「先生、私、何度も言うようですけど二宮さんには負けませんから。」
「あのさ、智は俺のことが好きなのよ?もう、その時点で負けてるじゃない。」
「先生は優しいから、あなたのこと本当は迷惑してるのに、ハッキリおっしゃれないだけです。」
「自分が見えてないって怖っ・・・」
「自分が見えてないのはあなたです。」
「ううう・・・悪い。ちょっとおいらコンビニまで行ってくる。」
「智、逃げるのかよ?」
「先生、逃げるんですか?」
そりゃ、逃げたくもなるよ。目の前でこうもバトルが続いたら落ち着いてイラストの原案も浮かびやしない。
俺は近所のコンビニでコーヒーと釣り雑誌を買って、そのすぐ傍の公園のベンチに腰を下ろした。すっかり紅葉したもみじを眺めながら一服する。
そもそもニノに同棲の提案したのはこの俺だ。
ニノのお母さんを目の前にして突発的に浮かんだこととはいえ、こういう状況になるとは思ってなかった。
奈緒ちゃんのことは確かにどうにかしないとって思ってはいたけど、ニノとまさかのどちらも一歩も譲らない争奪戦を繰り広げるだなんて・・・
このままだと落ち着いて仕事も出来ない。どうしたものかなって、頭を抱えているとスマホに着信が入った。
「あ、ニノか奈緒ちゃんかな?」
スマホに表示されてるのは’櫻井翔’だった。
「もしもし?翔君?」
「あ、もしもし大野さん?」
「どうしたの?」
「うん、丁度仕事で近くまで来たからお邪魔しても良いかな?」
「えっ、あ、ホント?いいよ。今どの辺?」
「駅の目の前に居る。」
「分かった。直ぐ迎えに行くから、そこで待ってて。」
「え?場所を教えてくれたら自分で向かうけど。」
「いいの、おいらちょうど表に出てるから。直ぐだから待ってて。」
「そうなの?悪いね。仕事中なのに。」
俺は急いで駅方向へ翔君を迎えに行った。駅の改札口出て直ぐのコンビニの前にスーツ姿のイケメンを発見。俺は手を振りながら走り寄った。
「翔くーん!」
「あ、大野さん。」
「お待たせ。」
「全然待ってないよ。早かったね。」
「全速で走って来たから。」
「ハハハッ。そんなに急ぐことなかったのに。ゴメンね。突然お邪魔したりして。」
「ううん。翔君、何時来るのかなって、ずっと思ってた。」
「な、何かそれって、恋人を待ってる乙女な言い方だね。」
「んふふふ。似た様なもんだよ。」
「やめてよ。シャレになんねえから。」
「それじゃ、うちに行こうか?」
「うん。」
「あ、翔君、今うち色々とあってね・・・」
「色々って?」
「戦場と化してる。」
「えええっ?戦場?何よそれ?」
「助けてくんないかなぁ。」
「何?どうしたの?」
「運命の赤い糸が現れたかもしんなくて、その赤い糸が違う色の糸と絡まって大変な事になってるんだ。」
「言ってる意味が分かんないんだけど?」
「とにかく丁度良かったよ。翔君なら頭いいからおいらに知恵貸してくれるよね。」
「いや、説明が不足過ぎて情報が拾えないよ。」
翔君は突然俺からそんな相談を持ち掛けられて、困惑しまくってるといった表情だった。
つづく