
第3章
争奪戦17
その後直ぐに翔君は帰ってしまい、俺は怒って出てったニノを迎えに、ニノのアパートへと向かった。
それにしても、ニノと奈緒ちゃんが言い争いしている最中に逃げ出した俺も、そりゃ確かに悪いとは思うけど、顔を合わせれば喧嘩になるあの2人もどうかと思う。
翔君も言ってたけど、プライドとプライドのぶつかり合いみたいだ。
奈緒ちゃんに関していえば、女のプライドが傷つくっていうのは分かった。だけどニノは?彼は男だし、プライドとかの問題じゃないよな?
俺はニノと一緒に暮らしてることが分かれば奈緒ちゃんも流石に俺の事は諦めてくれるって、そのくらいを期待してたけのは事実だけど、俺の方から特には具体的な事は頼んだ覚えもない。むしろ、仲良くしてくれとお願いしたくらい。それなのに、どうしてそこまでヒートアップするのかが俺には分からない。犬と猿みたいに相性悪いのかな?
とにかくニノには戻ってきて貰わなきゃ。明日は木曜日だし、おばさんがやって来ることになってるから、ニノが居ないのは絶対にマズいよ。
ここは俺がひたすら謝るしかない。俺はニノのアパートに辿り着いた。呼び出しのベルを鳴らすけど、どうやら真っ直ぐ帰っていないみたい。
駐車場も確認したけど、ニノの車は停まっていなかった。買い物にでも寄ってるのかも・・・
俺は仕方なく、玄関の前に腰を下ろして帰りを待つことにした。
それから1時間以上経つけど、ニノは一向に姿を現さない。そろそろ夕方になって日も傾いてきた。
電話して待ってる事を伝えればわざと戻って来ない可能性が有る。だから、電話をすることは出来ない。俺は何時からこんなに気が長くなったんだ?
大好きな釣りしてる時は時間とかあっという間だけど、基本俺は行列に並んだり、人と待ち合わせしたりとかは、どちらかというと苦手なんだ。
かれこれニノを待ち続けて2時間が経過しようとしてた。気温もグッと下がってきたし、昼飯もろくに食べてなかったから腹も空いてきた。
すると、更に20分程経ってから、ようやくニノが姿を現した。
「ニノ!」
「おーのさん・・・」
「良かったぁ。もう戻って来ないかと思っちゃった。」
「俺の帰りを待ってたの?」
「うん。」
「何時から?」
「今さっき・・・」
そう言ったら、ニノが俺の手をいきなり握った。
「嘘ばっかし。冷たくなってるじゃん。ほら、とにかく入って。」
「えへへっ・・・」
ニノが玄関の鍵を開けて中に入れてくれた。
「馬鹿な人ですね。電話してくれれば良かったのに。」
「う、うん。そうなんだけど・・・」
「来てるって分かってたら色々寄り道せずに帰って来たのに。」
「うん、ゴメン。」
「でも、せっかく来てくれたけど、俺は帰るつもりはありませんから。」
「ニノ・・・」
「さっきも言いましたけど、俺はあなたの考えてることがイマイチ分からなくなったんで。」
「ホント、さっきは俺が悪かったよ。自分勝手過ぎたよね?」
「その事を言ってるんじゃないんです。」
「え?だったら何を怒ってるの?」
「奈緒さんのこと。」
「あ、うん。」
「あなたは彼女がプライベートまで踏み込まれて困ってるんじゃなかったの?」
「そ、そうだけど・・・」
「だったら、おかしいよね?どうして俺と奈緒さんが仲良くしなきゃなんないんですか?」
「えっ・・・そ、それは・・・」
「平和主義にもほどが有りますよ。彼女には節度を守らせたい。だけど傷付けるのは嫌だ。そんな話がまかり通るとでも思ってるの?」
「いや、それは・・・」
「あなたが言ってることは矛盾だらけなんだよ。言ったでしょ?二兎を追う者は一兎をも得ずって。奈緒さんからすれば、その気も無いのに何時までも優しくされて、ハッキリしないあなたの態度の方が、俺からするとよっぽど残酷に見えますけどね。」
「そ、それじゃおいらはどうすればいいの?」
「俺だったら彼女はきっぱりと切り捨てる。」
「それって解雇ってこと?」
「あなたには解雇にする正当な理由が有るよね?プライベートまで勝手に踏み込まれるのに迷惑してる。警告を発してるけど言うことを聞かないのならばクビになるのは当然かと思うけど。」
「でも、何もそこまでは・・・」
「でしょ?あなたはそれが出来ないんだよ。俺とあなたが一緒に生活してるだけであなたは彼女が絶望して勝手に身を引いてくれてると思ってたかもしれないけど、実際は違いましたよね?逆に俺にライバル意識を持ち始めて、あなたの身の回りの世話はなくなるどころかエスカレートしていってる。」
「確かに・・・」
「俺はあなたに協力するとは言いました。でも、あなたがそんな態度じゃこの先どんなに俺が頑張っても事態は悪くなる一方だと思うよ。」
「奈緒ちゃんの事は分かったよ。とにかく新しい従業員も募集してることだし、奈緒ちゃんには俺から最終警告を言い渡すよ。」
「最終警告?」
「もし、今度またプライベートな事に首を突っ込んだりしたら、その時は辞めて貰うからって、ちゃんと伝えるよ。」
「ホント?」
「うん。嘘は言わない。バシッと伝える。だから、帰ろう?」
ハアッと大きい溜息をつくと、ニノは仕方ないなって納得してくれて、なんとか俺の家に帰ってくれる気になった。
つづく