truth
第11話疑惑の解明
大野さんから休みを貰った俺は10日ぶりに我が家へ戻り、郵便物の整理と
着替えなどの必要な荷物をスーツケースに纏めていた。
そんな時、携帯に松本さんから電話が入った。
「もしもし、松本さん?」
「あっ、二宮くん?久し振り。どうしてるかと思って。」
「えっ・・・」
「仕事だよ。」
「あー、ファーストフードのバイトなら2週間前に辞めましたよ。」
「ええっ?マジで?それならうちに来たらいいのに。」
「それもちょっとは考えたんだけど、やっぱり僕には無理ですよ。」
「何で?無理かどうかはやってみなけりゃ分かんないのに。」
「うん、でも・・・もう他の仕事も決まったんで。」
「へえ。そうなんだ。」
「そういう事なんで、ごめんなさい。」
「それなら仕方ないけど・・・あっ、そうそう、実は突然電話したのはその事じゃ無いんだ。」
「えっ?」
「さっきね、櫻井って人から電話があったんだけど、知ってる?」
「櫻井?・・・あっ、週刊誌の人?」
「そうそう、なんだ、知り合いか?君の自宅に何度か足を運んだけど、全然捕まらないから
電話番号を教えて欲しいって言われてさぁ。
勿論個人情報だから、本人に確認してからって言ったんだけど。」
「俺に何の用だろう?」
「どうする?教えたくないなら断るけど。」
「その人、俺の裁判を傍聴席で全部見てたらしくて。」
「はーん、なるほどそういうことね。記者には気を付けなよ。色々喋ると有ること無い事記事にされて
後々厄介になる事多いから。」
「櫻井さん・・・何か分かったのかな?」
「えっ?何が?」
「いや、こっちの話です。あ、その人の連絡先は俺名刺持ってるんで分かりますから
俺が直接電話しておきますよ。」
「あのさ、前にも言ったと思うけどさ、あの事件の真相はもう首を突っ込まない方がいいよ。
君があの判決に納得してないのは良く分かるけど、判決の下された事件を蒸し返しても
良い結果が得られるとは限らないんだ。俺はそういう事件を幾つも知ってるけど
判決が覆ることは殆ど今まで無かったからね。」
「あ、俺はべつに真犯人見付けて告発しようとか、そういう事を言ってるんじゃないの。
俺はただ真相が知りたいだけなんですよ。本当にそれ以上は求めてないから。」
「そう?ま、ほどほどにしときなよ。」
「うん、ありがとうございます。」
「たまには顔見せに来なよ。」
「はい、近いうち必ず・・・」
「それに、何か困った事が有ったら何時でも声かけてくれて良いんだからね。」
「ありがとう。」
そもそも松本さんは俺の親父の知り合いが紹介してくれた弁護士で
相当腕の立つ弁護士だって事は聞いてたんだけど
実際会ってみたら思ってた印象とは真逆のとても優しい気さくな人で
俺の弁護人を引き受けてくれてからというもの、ずっと俺の事を気に掛けてくれてて
俺も色んなことを相談できる存在ではあったんだけど
心病んでる時に俺が頼ったのは松本さんではなくて大野さんだった。
それはやっぱり、法律とか難しい事は分からないけど大まかなあらすじだけで
俺の事を信じてくれたのが一番嬉しかったからだと思う。
松本さんからの電話を切った後、直ぐに櫻井って人の名刺を探した。
あの日着てた服のポケットにその名刺はそのまま仕舞ってあった。
もしかしたら、何か有力な情報とか掴んだのかもしれない。
俺はそう思って櫻井さんに急いで電話を入れてみた。
「もしもし?櫻井ですが・・・」
「あ、俺です。二宮です。弁護士の松本さんにお電話されたそうですね?」
「あっ、二宮さん?何度かお宅を訪ねてたんだけど、留守だったんで・・・」
「俺に何か緊急の用事でも?」
「ちょっとあの二人の事で調べてたら色々と見えて来たんで。」
「真犯人が分かったの?」
「いえ、残念ながらまだそこまでは流石に辿り着いて無いんですが。」
「そっか。今まだ俺自宅に居るんだけど、これから直ぐに来れる?」
「あっ、そうなんですね?分かりました。それじゃ、これからちょっと伺います。」
「うん。待ってますよ。」
そして、その電話から30分程で櫻井さんは自宅にやって来た。
「すみませんね。お忙しいところ。」
「ううん、たまたま戻って来てたから。」
「今、ここには住んでないんですか?」
「仕事を変わったから・・・その勤務先のオーナーの自宅に居るの。」
「そうだったんですね。」
「それで?あの二人の事で何が分かったの?」
「殺されたあの二人、実は相当色んな人の弱みを握って、それをネタに金を巻き上げてた可能性が高い。
あ、ほら・・・あなたの知り合いのゲーム友達もその揺すられてた人間の一人ですよ。」
「ええっ?でも俺には全然二人とは面識無かったって・・・」
「事情が事情だからじゃないですか?本当の事は言わないでしょう。
あなたを祭りに誘い出すきっかけを作る協力をさせた可能性は極めて高い。」
「共犯者だったってこと?」
「ええ。」
「信じられない・・・それじゃ、真犯人はあいつ?」
「いや、多分それは無いでしょう。彼は情報提供だけだと思いますよ。だって彼は事件に大きく関わってる訳だし
警察から事情聴取受ける事も当然想定内だった訳だから、アリバイも割り出されるでしょうしね。」
「で、でもそれじゃ誰が?」
「あの二人がゆすって金を巻き上げようとした人間の中に、実は一人自殺にまで追い込んだって話が有るんです。」
「えええっ?ホントに?」
「そういう話を聞くと、やはりあの二人を殺したいほど恨んでた奴は大勢居たでしょうね。」
「俺は・・・誰かの復讐の為に利用されたってこと?」
「結論としてはそういう事だと・・・」
「そうか・・・そういうことか・・・どうせ殺しても俺がやったことにすれば正当防衛で筋が通ってるように見えるものね。」
「かなり計画的に仕組まれた犯罪です。」
「その自殺まで追い込まれた人の周辺とかに真犯人とか居るのかな?」
「まだ今そこを細かく調べてるところで・・・」
「そうか・・・でも、それが分かっただけでも俺はもうイイかな・・・」
「二宮さん?」
「だって、身内とか知り合いが追い込まれて死んでるわけだし
殺したいって思うほど憎んでたわけでしょ?
もう実際あの二人はこの世に居ない訳だし、俺が道具に使われた事についてはやりきれないけど
全て丸く収まった事には違いないわけだから。
もう、これ以上俺はご報告して貰わなくても大丈夫なんで・・・
あなたもこんな事件に何時までも拘ってないで、幸せな日常を送った方が良いと思うよ。」
櫻井さんとしては、ここまで来たのなら真犯人まで特定したくなる気持ちは分からなくもない。
でも、俺は100%ここから関わらないと決めた。
それは自分がやってないと分かったそれだけで、精神的に開放されたからだ。
「そういえば、相葉さん元気ですか?」
「えっ?あー、彼は元気ですよ。」
「今度一緒に飯でも行きましょうよ。」
「イイですね。相葉くんにも伝えておきます。」
俺としてはこれで事件に関しては完全に終止符を打ったつもりだった。
続く