truth
第18話 君の目に映る俺
それから残りの時間を掛けて大野さんは俺の絵をなんとか完成させた。
大野さんの気が散るといけないからと思い、俺はあれから一切アトリエを覗いていない。
だから、どんな仕上がりになってるのかまだ何も知らないでいた。
「ふあぁ・・・出来たぁ。」
その日徹夜して絵を描いてた大野さんは、大きなあくびをしながら居間に姿を現した。
「お疲れ様。出来たんんだ?」
「うん、なんとか仕上げた。」
「見せて貰ってもイイですか?」
「いいよ。」
俺はちょっとドキドキしながらアトリエに向かった。
アトリエ部屋の扉を開くと、カーテン越しの窓際の所に完成した俺の絵が
ディーゼルに立て掛けてあった。
恐る恐る俺はその絵に近付いてみる。
「こ、これって・・・」
顔は完全に俺なんだけど、絵そのものは吉祥天の如来像みたいのが描かれていた。
それがなんとも独特の世界観っていうか・・・
その絵を見た瞬間、もう全身に鳥肌が立って
本当にどうしてだか自分でも分からないんだけど
ポロポロと涙が溢れて止まらなくなった。
「ニノ・・・?」
「す、凄いよ・・・あなた、本当に凄い才能の持ち主なんだ・・・」
「やめてくれよ。才能だなんて・・・」
「あなたには、俺がこんな風に見えてたなんて。」
「ごめんね。なんか、普通に描いてあげれば良かった?」
「ううん。でも、俺なんかがこんな尊い絵のモデルだなんて、なんか申し訳ないっていうか。」
「ニノを見ていたら吉祥天が浮かんできたんだ。幸福や美の神なんだよね。
ニノは何でか天女のイメージがピッタリなんだよ。美人に描けてるだろ?」
「確かに、俺自身筋肉質な体系でも無いからね・・・」
「んふふ。そういう中性的なところがおいらは好き。」
「それにしたってこんなに素敵に描いてくれてありがとう。」
「次に描くときは普通に描くよ。」
「また描いてくれるの?」
「うん。次は普通に描いてニノにプレゼントするよ。」
「普通か・・・でも俺あなたの独創的なセンスも好きですよ。」
「ふふっ、ありがと。」
「疲れたでしょ?今日はゆっくり休みなよ。」
「え?やだよ。明日は帰らなきゃなんないんだよ?今日はニノと軽井沢の行けてない所を
デートして回らないと。」
「ダメだよ。あなた夕べは一睡もしてないんだから、眠らないと身体壊しちゃいますよ。」
「いいんだって。そんなことより、おいらはニノと沢山思い出を作りたいの。」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、何時かまた来ればいい事じゃん。」
「また一緒に来てくれる?」
「もちろんですよ。」
「ホントに?」
「本当ですって。」
「でもやっぱずっとほったらかしてたからさ・・・」
「俺の事は気にしないで、あなたはとにかく睡眠とってください。」
「じゃ、一緒に寝よう。」
「ええ?俺はもう眠れませんよ。今まで寝てたんだから。」
「頼むよ・・・」
「んもう、子供みたいですね(笑)仕方ないなぁ・・・」
そうは言いながら、俺も実は甘えたかったから本当は嬉しかった。
こうして俺と大野さんの軽井沢滞在の幸せな2週間はあっという間に過ぎていった。
そして東京の大野さんの自宅に戻ると、俺達は別々の部屋で生活していたから
早速俺は大野さんの部屋に移動することになった。
軽井沢の別荘には大野さんが俺の絵を描く為に計画した事だったけど
俺にとっては大野さんと深い関係になれたってことは大きな収穫だった。
そして、その翌日から再び画廊を開場させた。
2週間ぶりの開場だったこともあって、その日はとにかく来客が多くて
大野さんと俺はバタバタと接客に追われてた。
客足が落ち着いて、大野さんが昼休憩に入った正午過ぎの事だった。
画廊に見覚えのある二人がやって来たんだ。
「いらっしゃいませ。あっ!櫻井さん?相葉さんも・・・」
「えっ?あっ、二宮さん?」
「ど、どうしたの?二人揃って・・・」
「二宮さんこそ、どうしてここに?」
「えっ?どうしてって、俺はここで働いてるんだけど。」
「えええっ?」
櫻井さんと相葉さんは驚いた表情で、直ぐにお互いの顔を見合わせた。
「あの、大野さんは?」
「今休憩中なんです。大野さんに何か?」
「ニノ、久し振りだね。元気そうで良かった。まさかこんな所で会えるなんて・・・」
「うん、相葉さんも事件の事では随分心配してくれてたそうで、ありがとうね。」
「ニノ?それよりここには何時から?」
「え・・・そろそろひと月位かな。」
「二宮さん、大野さんの事何もご存知ないんですか?」
「えっ?何のこと?」
「以前お会いした時、二宮さんはオーナーさんの家に世話になってるっておっしゃってましたけど
まさかそれって、そのオーナーって大野さんの事ですか?」
「そ、そうだけど?」
「マズいよ、ニノ。」
「はっ?マズいって何が?」
「今日、終わってから時間有る?」
「ええっ?」
「ちょっと大事な話が有るんだ。何とか時間作れないかな?」
「い、良いけど、何?」
「後でゆっくり話すよ。仕事が終わったら翔ちゃんに電話して。」
「翔ちゃん?」
「あっ、僕ですよ。」
「ああ、櫻井さんね。」
「必ずだよ?連絡してよ?」
「わ、分かったよ。」
全く意味が分からない。
二人は俺がこの画廊で働いていることは知らず、大野さんに何か用事が有って来たはずなのに
俺の顔を見て急に二人の顔色が変わった。しかも大野さんを待たずにさっさと帰ってしまった。
それにしても俺に大事な話って・・・一体何の話だろう?
続く