truth
第2話 連絡先
松本さんから連絡を貰った俺は次の日の午前中、松本さんの弁護士事務所を訪ねた。
「おはようございます。あの、松本さんは?」
「あ、二宮さんお久し振りです。どうぞ、お掛けになってお待ちになってて下さい。
先生は直ぐに戻られますから。」
「はぁ・・・それじゃ失礼します。」
10分程応接間で待っていると、松本さんが外出先から帰って来た。
「いやぁ、ゴメンね。お待たせしちゃって。急に仕事が入っちゃってさぁ・・・」
「お忙しいんですね。相変わらず・・・」
「最近こざこざした事件が多くてね。今も現場に行ってきたところ。午後からも2件予約が入っててさぁ。
裁判所に書類も提出しなきゃならなくて。ああ・・・体が一つじゃ足んないよ。」
「僕で何か手伝える事あれば、お手伝いしますよ?」
「ええっ?君が?」
「あっ・・・僕なんかじゃ何の役にも立てないか。」
「いやっ、それは助かるかも。」
「えっ?」
「ねえ?君さ、確か仕事探してたよね?」
「あっ、はい。」
「もう決まった?」
「なかなか高校中退だから正社員の採用は厳しくって。」
「ここで勉強して資格取る気ないか?」
「ええっ?べ、勉強って、まさか法律の?む、無理ですよ。」
「司法書士の資格取りなよ。大丈夫だって。俺がサポートするから。」
「で、でも・・・」
「拘束されてる間、大学も受験出来なかったんだもんな。気の毒な話だよ。
国家試験に合格すれば、その辺の同級生なんかにも負けないくらい高収入を得れるようになるよ。
ここで働きながら勉強すれば必ず合格出来るって。」
「でも・・・」
「どうせファーストフードのバイトでしょ?そんなの何時までも続けてらんないでしょ。」
「な、何でそこまで考えてくれるの?」
「何かの縁でしょ。俺が君の弁護を引き受けたのも。」
「だけどそこまで甘えるわけには・・・」
「俺も人手が足んなくて困ってるの。まぁ、今直ぐ決めなくて大丈夫だから
その気になったら何時でも声掛けてよ。」
「はぁ・・・」
「あっ、それでさ証言立ってくれた人の連絡先だけど・・・
本人からOK出たから、ここの住所に19時以降なら何時でも訪ねてくれていいって。」
そう言って松本さんは俺にメモ紙を手渡した。
「あっ、有難うございます。良かった。拒否されたらどうしようかと思った。」
「ちょっと最初は戸惑ってたけどね。」
「そ、そうなんだ?」
「大丈夫、凄く良い人だから。」
「そうだよね。見ず知らずの俺なんかを助ける為にわざわざ証言台に立ってくれたくらいだから。」
「うん。それよりちゃんと眠れてる?」
「なんとか最近は・・・でも時々まだあの時の夢を見るんだ。」
「そりゃ無理も無いよな。目が覚めたら死体と一緒に横たわってたわけだし。」
「あのさ、もう今更事件を蒸し返すつもりは無いんだけど・・・真犯人って本当は居るんじゃないかなって。」
「その話か・・・」
松本さんはちょっと目を細めて窓の外に目をやった。
「俺も・・・君が直接やったとは思えないんだよね。」
「だったら真犯人探さないと・・・」
「だけど、俺の仕事は君を無罪に導くって事だっただろ?君が無罪判決だった時点で
この事件は幕を閉じた。そりゃあ、無罪にはなったけど、正当防衛で君が二人を殺害したという
シナリオは書き換えられなかった。」
「他に犯人が居るかもしれないのに、もうこの事件は真相を追わないの?」
「悪者は君を犯そうとしたあの二人の青年だからな。そこに裁きを与えるにしても
誰かの手によって殺されたわけで、それが君だとしても君は法で裁かれない。
言い方は良くないかも知れないが、丸く収まった事に変わりないって事。」
「裁判で丸く収まったとしても、俺は一生人を殺したという罪を背負って生きなくちゃなんないんだよ。」
「君は殺しちゃいない・・・そうだろ?」
「何度も話したけど、意識が朦朧としてる俺が人なんか殺せると思う?
ましてや俺は見ての通り、身体は華奢だし自慢じゃ無いけど体力は小学生並みだよ。
二人の男相手に簡単に殺害なんてこと出来ると思う?」
「勿論無理がある。だから俺は犯人は別に居ると思ってる。」
「だったら・・・」
「君の将来のことを考えてもこれ以上波風立てない方が良いと思うよ。
犯人は少なからず君の事を助けたわけだし。犯人の目的はあの2人を殺害することだったんだろう。
でなければ、あの時君も含めて殺害しても可笑しくはないはず。・・・だろう?」
「そ、そうだけど・・・」
「もう忘れる事だよ。この事件にはこれ以上首を突っ込まない方がいい。」
「そんな・・・」
「それより、仕事の話真面目に考えてくれよ。」
「えっ・・・あ、うん・・・。」
松本さんから証言してくれた人の連絡先を貰うのが目的で事務所を訪れたんだけど
結局そんな話になってしまい、気分が酷く落ち込んでしまった。
「あ、それより彼女、どうしてる?」
「えっ・・・」
「ほら、よく面会に来てくれてたじゃん。可愛いロングヘアーの女の子。」
「ああ・・・梨沙ね。」
「梨沙ちゃんっていうんだ?」
「うん・・・アイツとは別れた。」
「ええっ?何で?」
「そりゃそうでしょ。両親が会わせてくんないからどうしようもない。」
「そっか・・・まっ、まだ若いんだから彼女くらい直ぐに出来るよ。あまり落ち込むなよ。」
「べつに落ち込んでなんかいませんよ。」
「それじゃ、なおの事勉強に集中出来るじゃん。頑張ってよ。」
「あの・・・連絡先、お世話になりました。また来ます。」
「もう帰るの?うん、良い返事待ってるよ。」
彼女の話なんかしたものだから急に声が聴きたくなった。
俺は事務所を出てから携帯で梨沙の番号を開いて電話を掛けてみた。
「お掛けになった電話番号は、現在使われておりません・・・」
正式に別れたわけじゃないけど、携帯変えたと分かって
当たり前かって再認識させられ、天を仰いで大きく溜息をついた。
「はぁっ・・・そりゃそうだよな。」
俺は人なんか殺してない。
だけど、彼女や仕事、確実に人生で大切な物を失った。
続く