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第23話 大野家
墓苑の駐車場に停まってる1台の車に大野さんが手を振りながら近付くと
中から見知らぬおばさんが降りて来て俺の方を見て深々とお辞儀をした。
「だ、誰?」
不安そうに大野さんに尋ねると
「おいらの母ちゃんだよ。」
「えっ?お母さん?」
「初めまして。智がいつもお世話になって・・・」
「は、初めまして。こ、こちらこそお世話になってます。」
「暑いわね。ほら、二人とも早く車に乗って。」
俺と大野さんはそう言われて車の後部座席に乗り込んだ。
「あの?別に俺の事連れて行きたいって言ってた所って・・・」
「うん、おいらの実家。」
「そ、そうなんだ。」
「ここから近いんだよ。」
「智、今日から画廊はお休みなんでしょ?」
「うん、そうだよ。」
「だったら泊ってくでしょ?」
「あ、いや・・・今日は帰るよ。」
「どーしてよ?」
「ニノにも話してなかったしさ、休みにまで付き合わせられないよ。」
「ええっ?折角だからいいじゃないの。泊まって行きなさいよ。」
「いいよ。父ちゃんも居るでしょ。」
「今夜、ここの地区で花火大会があるのよ。ニノくんも見たいわよねぇ?」
「えっ?あっ、花火大会・・・暫くそういうの見てないかな。」
「ほらぁ。見たいわよねえ。いいから泊まって行きなさいって。」
「ニノ、予定とか大丈夫か?」
「予定・・・ですか?」
「そう。ニノだって実家とか帰ったりしなきゃなんないよね?」
「あ、俺の家族は父さんの田舎に引っ越しちゃってるから・・・」
「帰らなくてもいいの?」
「うちの両親も俺が田舎に会いに行くとは思ってないですよ。」
「それじゃ、今夜は泊まる?」
「ご迷惑じゃなければ・・・」
「うちは大歓迎よ。お父さんも凄く楽しみにしてるんだから。」
「マジかよ。」
随分おばさんはご機嫌な様子だけど、一体大野さんは俺の事をご両親に
何て説明してるんだろう?
車で20分くらい走らせた場所に大野さんの実家は有った。
普通の住宅街に建ってる庭付きのなかなか立派な一戸建てだ。
「さぁ、散らかってるけど上がってちょうだい。」
おばさんがそう言って玄関を開けて俺達を家の中に招き入れた。
「お邪魔します。」
靴を揃えて中に入ると、二匹の中型犬がリビングの方から現れて
俺の事を尻尾がちぎれるんじゃないかってくらい歓迎してくれて
どちらも俺に纏わりついて離れない。
「可愛いね。これ犬種は何なの?」
「キャバリア。」
「名前は?」
「こっちがメル、こっちがプリン。」
「どっちも同じ顔してるのによく分かるね?」
「ハハハッ、それにしても随分懐かれたもんだね。初対面だと警戒するんだけど。」
「多分、あなたの匂いするんじゃない?」
「あっ、そうか。そうかも・・・」
暫く玄関で犬と戯れてたら、奥からお父さんらしき人が現れた。
「おお、戻ったか?いらっしゃい。」
「ニノ、おいらの父ちゃんだよ。」
「あっ、どうも初めまして。二宮です。」
「堅苦しい挨拶はいいから、中に入りなさい。」
リビングに入ると、大野さんが描いたと思われる犬の絵が飾られてあって
窓ガラスからは緑の芝生とセンス溢れる家庭菜園が目に入る。
大野さんが絵のセンスあるのって、やっぱりご両親の影響もあるかもしんない。
そして、何よりも仲良くて優しそうなご両親・・・
こんな幸せな家庭環境で育った人が不倫したり、
人を恨んで殺したりなんてするわけがないんだよ。
やっぱり、あの話は全て櫻井さんの憶測にしか過ぎないんだ。
「スイカ、召し上がれ。」
「わぁ、有難うございます。」
「ニノくんって本当に可愛いわねぇ・・・」
「えっ?そ、そうですか?」
「母ちゃん、花火って何時から?」
「確か20時からよ。」
「まだちょっと時間有るな。」
「おっ?智達は花火観に行くのか?俺も一緒に行こうかなぁ。」
「まあ、お父さん!邪魔しちゃ駄目ですよ!」
「おお、そうか・・・すまんすまん。」
おじさんはバツが悪そうに頭を掻いてそう言った。
邪魔?どういう意味だろう?
俺と大野さんの邪魔になると言いたいのかな?
それって・・・えええっ?
もしかして、大野さん?俺の事どういう風にご両親に説明してんの?
「ニノ、まだ少し時間有るから、おいらメルとプリンの散歩に行って来るけど
暑いから、ここで待ってる?」
「えっ・・・お、俺もお供します!」
冗談でしょ?この空気の中に置いてきぼりにする気かよ?
俺は食べてたスイカを置いて慌てて席を立った。
大野さんは二匹の犬にリード線を着けて庭先から外に出た。
俺も急いでその後を追った。
「ね、ねえ・・・大野さん?」
「なに?」
「質問なんですけど、俺の事ご両親にどういう説明してるんですか?」
「えっ・・・どういうって?」
「何かさっきから、様子が変なんだよなぁ。」
「そうかなぁ。」
「変ですよ!絶対!俺、何者だと思われてんすかね?」
「一応母ちゃんには恋人連れて帰るって電話したけど。」
「ええっ?」
「いけなかったか?」
「あ・・・いや・・・その・・・」
大野さんちって、同性愛に理解有るんだ?
続く