truth
第28話 濡れ衣
「とにかく、大野さんの事は俺に任せて。もう少し詳しいことが分からないと
逮捕状が出たというわけでもないだろうから今は現状を調べる事が先決だよ。」
「う、うん・・・」
「落ち着かないだろうけど、何か分かったら連絡するから
とりあえず自宅に戻って大野さんの帰りを待っててよ。」
「分かった。松本さん、もしも大野さんに容疑の矛先が向いてたとしたら
絶対に真犯人が仕掛けてるって思うんだ。
あの人は絶対そんな人じゃないよ・・・」
「ああ・・・分かってるよ。」
松本さんに専門的な事は全てお願いして、俺は言われた通りに
自宅に戻り、大野さんの帰りを大人しく待ってた。
大野さんが戻って来たら、出来るだけいつものように振舞いたい。
俺は何事も無かったかのように、夕飯の支度を始めた。
すると、俺のスマホに着信音が鳴り響く。
もしかして、松本さん?何か分かったのかな?
俺は慌ててエプロンで濡れた手を拭って
スマホに手を伸ばし、表示されてる相手を確認した。
「相葉さん・・・?」
その電話は相葉さんだった。
恐らくさっき俺が櫻井さんに電話で大野さんの事を話したからだろう。
「もしもし・・・」
「あ、ニノ?翔ちゃんから聞いたんだけど、大野さんが警察に任意同行を求められたって?」
「うん・・・」
「何の容疑?」
「それはまだ分からないんだ。」
「その事でちょっと気になる情報を入手したんだけど・・・」
「えっ?ほ、本当ですか?」
「うん。ちょっと電話では何だからさ、今から会えるか?」
「わ、分かった。何処に行けばいい?」
「俺が今からそっちに迎えに行くよ。30分後に画廊まで来てくれる?」
「うん、了解です。」
相葉さんは仕事柄、色んな情報網を張り巡らしてるから
何か大野さんの今回の件でも有力な情報を掴んでるかもしれない。
俺は夕食の準備は中途半端なままで、出掛ける準備を始めた。
何だかとても胸騒ぎがする。
俺がずっと目を逸らして来た、あの事件の真犯人・・・
俺と大野さんまでも利用して意のままにしようと企んでる。
大野さんに害を及ぼすような事が無ければ
俺は自分の納得のいかない判決にも目を瞑るつもりだったけど
あの人に疑い掛けられてはもうジッとしてはいられない。
やっぱり俺はあの事件の真相を知る必要があるんだ。
約束通り、俺は画廊の前で相葉さんの迎えを待った。
数分も待たずに相葉さんは自家用車で俺を迎えに来た。
「ゴメンね。待った?」
「ううん。今来たとこ。」
「よし、それじゃ行こうか。」
「行くって・・・何処に?」
「着いて来ればわかるよ。」
「あ、あの?それって、今回の大野さんの件と何か関係あるの?」
「うん、大有りだよ。」
相葉さんはそう言って俺をある場所まで連れてった。
30分程車を走らせ、到着した場所は普通の住宅街の中にある
とある一軒の家の前だった。
「さ、着いたよ。」
「ここは・・・?」
「いいから、降りて。」
「う、うん・・・」
相葉さんはその家のインターホンを押した。
「はーい・・・」
「こんにちは。お忙しいところすみません。相葉です。」
玄関の扉が開いて、俺は見覚えのある人の姿に言葉を失った。
「あっ、あなたは・・・」
「あら、あなたはこの前大野さんの所でお会いした・・・」
「えっ?知り合いだったの?」
「一度だけ・・・偶然だけど大野さんのマンションで・・・」
「へえ。そうなんだぁ。」
その人はあの真理さんの母親だった。
「二宮は僕の友達なんです。お母さん、良かったら彼に
今回の件の経緯を話してあげて貰えませんか?」
「えっ?・・・ええ、それは良いけど・・・
とにかくここでは何ですから、中にお上がり下さいな。」
家の中の和室の居間に通された俺達は
仏壇に飾られた真理さんの遺影に手を合わせた。
おばさんが卓袱台の上にアイスコーヒーを差し出し
「何もお構いできませんけど、どうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
俺と相葉さんは恐縮そうに頭を下げた。
「大野さんが警察に任意同行を求められたのは、
真理さんの死因が自殺と当初言われてた事に対して
ご両親が他殺ではないかと訴え続けてきたことでようやく
警察が動き出した事が関係してるんだと思うんだよ。
そうですよね?」
「ええ・・・相葉さんの言われる通りです。
私どもは最初から真理が自殺などするはずがないと
警察に訴え続けて来たんです。」
「で、でも、それって犯人は大野さんだと思ってるんですか?」
「あの人は、真理が結婚していることを知ってて真理を誘惑してたんですよ。」
「お、おばさん、それは真理さん本人から聞かれた話ですか?」
「いいえ。真理は大野さんの話は私には一切しなかったから。」
「そ、そんな。それじゃ、大野さんが殺したって証拠は有るんですか?」
「あの真理をゆすってた二人の男性、あの人の知り合いだったと言うじゃない。」
「あの?それは誰から聞いたんですか?」
「それは真理の夫の石川さんが・・・」
「石川?あの地方議員の?」
「え、ええ・・・」
「やっぱりそうか。」
「ニノ?石川さんを知ってるの?」
「ちょっとね・・・おばさん、その石川って人、真理さんに暴力を奮ってたことは
ご存知なんですか?」
「そ、それは・・・」
「ご存知なんですね?」
「でも、石川さんの気持ちを考えたら・・・不倫だなんて・・・
本当にお詫びのしようもないんです。それなのに、あの人は
それはそれは立派な葬儀まで開いてくれて・・・」
「それ・・・完全に騙されてますよ。」
「えっ?」
「石川ってヤツが、真理さんの死後直ぐに再婚なさってるのは知ってました?」
「あの方は政治家ですからね・・・支えが必要なのも分かりますし。」
「それじゃ、3歳くらいの子供さんが居るのも?」
「ええっ?」
「知らないんだ?」
「3歳って・・・まさか・・・」
「そうですよ。不倫してたのは真理さんと大野さんじゃない。あの石川ってヤツですよ。」
続く