truth
第33話
俺は石川に講演会のオファーだと嘘のアポを取って
一流ホテルのラウンジに呼び出した。
少しでも疑われない様に、俺はスーツ姿に眼鏡を掛けて
あたかも「講演会の主催者」を装って約束の場所へ向かった。
流石に議員だけあって、約束の5分前に石川は姿を現した。
「こんばんは。石川さん、今日はお呼び立てしてすみません。」
「えっ?あっ、君は・・・」
「覚えて下さってたんだ。嬉しいなぁ。」
「仕事の話でないのなら、私はこれで失礼する。」
「あー、待って。勿論仕事のお話に決まってるじゃないですか。」
石川は俺の事に気付くと直ぐに帰ろうと背を向けたから
俺は石川の右腕を掴んでそれを引き留めた。
「き、君は一体何者なんだ?」
「まあ、立ち話も何ですから、座ってゆっくりお話ししませんか?」
石川は周りの目を気にしている様子ではあったけど
仕方がないといった表情で俺に促されるまま
ラウンジ窓側のテーブル席に腰掛けた。
石川は俺が大野さんと接点が有ることは分かってるからか
イライラを隠し切れない様子で、小刻みに右膝が揺れている。
「・・・で?何の用だね?」
「あれっ?講演会のご依頼のお話ですよ?
秘書の方にお聞きになられてるんじゃなかったですか?」
「だったら名刺は?こういう席で先ずは名刺を出すのが礼儀だろう。」
「あっ、すみません。ちょっと急いでたので名刺会社に忘れちゃって。
俺は二宮です。二宮和也・・・あ、よくかずやって間違えられるんですけど
正確には和也と書いてかずなりって読みます。」
「この前君は花火大会の時に居たよな?」
「あー、そうそう。先日はどうも。お子さん可愛いですよねぇ。
顔なんてもう石川さんにそっくりで・・・あっ、奥さん似なのかなぁ?
奥さんもめちゃめちゃ美人な方ですよね。」
「何が言いたい?」
「あなたは本当は俺の事、もっと前から知ってますよね?」
「いや・・・あれが初めてだ。」
「そうかなぁ。一昨年の花火大会の頃に一度お会いしてる筈なんだけど。」
「な、何の事だ?」
「あ、でも正確に言うと俺はあの時気を失ってたんで、
覚えてるとしたら俺じゃ無くてあなたの方だと思うんだけど。」
石川の顔を下から覗き込むようにしてそう言うと
石川は俺と目線を合わせない様に窓の外に視線を逸らした。
間違いない。こいつが犯人だ。
「石川さん?勘違いしないで下さいね?
俺は今日、実はあなたに御礼が言いたくて。」
「御礼?」
「そうですよ。あなたは俺の命の恩人だし、
しかも二度も命を助けて貰ったようなものなんだから。」
「だから、さっきから君は私に何を言いたいんだと聞いてるんだ。」
「大野智・・・ご存知ですよね?」
「は、はっ?」
「実はね・・・俺、凄く困ってたんですよねぇ。あの人しつこくてさぁ。」
「大野は私の妻を殺害した。」
「うんうん。だから刑事告発してくれたんでしょ?」
「私は知らん。」
「ですよねぇ。だって真理さんのご両親を使って告発させたんだもの。
あなたってホント天才ですよね。」
「悪いが帰らせて貰う。」
石川は不機嫌丸出しでその場から立ち上がる。
俺も立ち上がって石川の肩を両手で押さえてその場に座らせた。
「まあ、待ちなさいよ。ここからが本題だから。
あなたがこれまでの事件の全ての鍵を握ってる事くらい分かってるんだ。
真理さんをヤッたのも、あの二人を利用してこの俺まで利用して
完全犯罪を企てたんでしょう?」
「何を証拠に・・・」
「証拠?証拠なんて幾らでも消せるし幾らでも消せるよね。
なんなら最後はこの俺も消します?」
「私は忙しいんだ。君のいい加減な妄想に付き合ってる暇はない。」
「3年前といえば、あなたはまだ真理さんと夫婦関係にあった。
それなのにあなたは真理さんが亡くなって直ぐに再婚した。
再婚相手のお腹の中には既にあなたの子供が居たんだよね?
真理さんはあなたが浮気してる事を以前から知っていて
あなたは真理さんから責められる前に暴力で真理さんを制圧してた。
そうしてる中、真理さんは教え子だった大野さんに絵のモデルを依頼した。
その事を知ったあなたは真理さんと大野さんが不倫関係に有るという
証拠を作り出す為にあの二人を金で雇った。
あの二人はたまたま大野さんと釣りで知り合いだったからね。
更に二人はあなたから依頼されて真理さんに
不倫関係をご主人にばらすと強請りを掛けさせた。
真理さんは次第に衰弱していき精神的に追い込まれて自殺を図る。
ここまではあなたの計画通りだよね。
だけどここからあなたのシナリオに誤算が生じるんだ。
あの二人がこのネタを使って逆にあなたを強請って来た。
後々あの二人を生かしていたら、色んな証拠として残る訳だから
あなたはあの二人を何とかして消そうと考えた。
それが、俺のあの事件って訳だよね・・・
ホントあなたって天才だよ。良くこんな出来たシナリオ考えたよ。
俺から言わせて貰えば、脚本家にでもなったら?ってレベルだよ。」
「その言葉・・・そのままお返しするよ。」
「証拠が無いもんねぇ。」
「私がヤッたって証拠は何処にも無いだろう。」
「あなたが全て消したからね。」
「名誉棄損で訴えるぞ。」
「あ、どうぞ、どうぞ。俺、もう何も失うもの有りませんから・・・」
「何が目的だ?金か?」
「えっ?あーそうだなぁ。
俺の拘束された1年間を金で換算して貰いたいところだけど・・・
ざっと10億ってとこかなぁ。だって俺やってないのに
正当防衛とは言え、二人殺しちゃった事にされたわけだし。」
「話にならんな。」
「冗談に決まってるじゃない。そんなお金仮に受け取ったとしても
俺どうせあなたに消されちゃうんでしょ?そんなのごめんだからね。
1年位拘束されるの何てことはないですよ。
それであなたのお役に立てたのならね・・・」
「今の話、他で喋ってないだろうな?」
「えっ?あー、これから話そうかどうしようか悩んでるんです。」
「望みは何だ?」
「あ、聞いて貰えるんですか?やっぱり市議会議員ともなると
話が早いなぁ。
金なんて1円も要らない。大野さんの告発を今直ぐ取り下げて。」
石川は鋭い眼光で俺を睨み付けた。
続く