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第35話 大誤算
そしてその翌日、早速大野さんの釈放が決まったとの連絡が松本さんから入った。
石川が出頭した?松本さんに聞いても、まだそこに関して情報が入っていないらしい。
まぁ、いずれにしてもあの石川に動きが有った事に間違いない。
流石にネットにばら撒かれては困るから焦ったんだろうな。
とにかくやっと大野さんに逢えるんだと思うと、ジッとしてられなくて
俺は大野さんが収容されてる拘置所にへと向かう。
季節はいつの間にか人肌が恋しくなる秋・・・
今日は折角のおめでたい日だっていうのに朝から雨が降ってる。
大野さんは傘を持ってないから、俺が行かないと濡れてしまう。
自宅を出る時、ビニール傘を2本手に持ったけど、
1本でも十分かって思ってそのビニール傘を傘立てに戻し
少し大きめのコウモリ傘を1本だけ手にして
まるで初めて誘われたデートにでも向かうみたいに俺は浮かれてた。
そして、大野さんは逮捕から僅か7日振りに外の空気を吸った。
「大野さん!」
「ニノ・・・」
「何でおいら釈放して貰えたの?」
「石川だよ。あいつが告訴を取り下げたんだ。」
「石川さんが・・・?」
「もう大丈夫ですよ。あなたの疑いは晴れたも同然です。」
「何があったんだ?」
「ちょっとね・・・松本さんの知恵を借りて強請ってやったんですよ。」
「石川さんを?」
「そう・・・あいつの顔、あなたにも見せてやりたかったよ。」
「石川さん、どうしておいらを・・・」
「邪魔だったんですよ。真理さんもあなたも、そして俺を襲ったあの二人も。」
「じゃ、邪魔?」
「そう。あいつの浮気の事知ってるヤツを片っ端から消したかったんだ。
でも流石に大野さんまで殺しちゃマズいと思ったんでしょうね。
だから、真理さんの自殺を大野さんによる他殺に仕立て上げて
あなたを牢屋に閉じ込めようと企んだんじゃないかな。」
「強請るって・・・どうやって?」
「えっ?大野さんの告訴取り下げて、自首しなかったら
ネットで全部拡散するって言ってやったの。
あいつに会いに行くのにボイスレコーダーを相葉さんから借りて
盗聴マイクも着けて俺と石川の会話の内容は聞いて貰ったの。」
「石川さんは?それで自首したの?」
「それはまだ確認出来てないんだけど、時間の問題でしょ。
だってそうしなければ、どのみち世間に情報が拡散されて
仕事どころじゃなくなるからね。」
「本当にそんなことして大丈夫なの?」
「大丈夫とかそういう問題じゃないでしょ。
何も罪のないあなたや俺が殺人犯にされるところだったんだよ。
悪い事してたヤツが罰を受けるのは当然の事です。」
「そ、それはそうだけど・・・」
「大野さんも心配性だなぁ。大丈夫だって。さっ、帰りましょう。
久々ゆっくり家の風呂にでも入ってさ、今夜は祝杯あげましょうよ。」
「う、うん・・・」
若干戸惑う大野さんの腕を引っ張って駐車場に停めてある車の場所まで
一つの傘に二人で入って歩いた。
そして、車に乗り込もうとしたその時だった。
「お前らさえ居なくなりゃ、俺は何も失わずに済むんだ・・・」
「えっ?」
その聞き覚えのある声に振り返ると
傘もささず、ずぶ濡れになった石川がナイフを構えて
物凄い形相で俺の方を目掛けて駆け寄って来た。
「ニノッ!危ない!・・・うっ・・・」
それは・・・一瞬の出来事だった。
俺は大野さんに弾き飛ばされ、俺を庇った大野さんは
石川に腹部を数回刺され、地面に倒れ込んだ。
「キャーッ!!」
近くに居た数人の女性がそれを見て叫ぶ。
「お、大野さん!」
石川はその叫び声で我に返ったのか、狂った様にその場を逃げ出した。
「大野さん!大野さん!しっかりして!」
俺は血まみれになった大野さんを抱きかかえた。
「に・・・ニノ・・・怪我・・・は?」
「俺は平気。それより、喋らないで!直ぐに病院連れてくから!」
俺は震える手でスマホを取り出し、救急車を呼んだ。
腹部を相当刺されてるから出血が酷くて、大野さんは次第に意識を失った。
数分後に救急車が来て、俺は大野さんと病院へ向かった。
処置室で手当てを受ける大野さんを待ち合いの椅子に腰掛けて待っていると
「ご親族の方ですか?」
「えっ?あ、いえ・・・」
「ご親族の方に直ぐにご連絡を・・・」
「あ、あの?大野さんは?大野さんは無事なんですよね?」
「非常に危険な状態です。とにかく急いで親族の方にご連絡を頂けますか?」
「危険?危険って何だよ?どういう意味だよ?助かるんですよね?
大野さんは助かるって・・・助けてよ!あんた医者だろ?」
頭の中は真っ白だった。
何でこんなことに・・・
俺は泣きながら床に崩れ落ちた。
俺は大野さんを自分の力で助けたつもりでいた。
だけど、それは完全な間違いだったって事にこの時ようやく気が付いた。
大野さんがこんなことになったのは
間違いなく全部俺のせいなんだ。
続く