truth
第36話
大野さんは意識不明の重体となり、ICUに運ばれ
大野さんの家族が次々に駆け付け、俺はというと放心状態で一人待合室で項垂れていた。
「ニノくん、あなたは何処も怪我はないの?」
「おばさん・・・すみません、俺のせいなんです。
俺のせいで大野さんがあんなことに・・・
大野さん、俺を庇って・・・」
「あの子は命を懸けてニノくんを守ったんだ?
そっかぁ・・・あの子も男らしいとこ有ったんだね。」
「お、おばさん・・・」
「だぁいじょーぶよ。もう何て顔してんの?
智は拘置所に居る間、たぶんゆっくり眠れてなかったから
暫く休んでるだけよ。そのうちケロッと腹減ったぁとか言って
起きて来るから心配なんて要らないわよ。」
そう言って俺の肩に優しく腕を回した。
おばさんだって、最愛の息子が瀕死の状態なんだから
本当は死ぬほど辛い筈なのに・・・
その優しさが俺には逆に胸を締め付け、うんうん、と頷いて頭を撫でられると、
俺は必死に耐えようとしたけど、涙が次々に溢れて止まらなくなった。
「だって、死んだりしたら今後あなたの事を守ってあげられないでしょ。
あの子は大切な物は一生大切にする子よ。
小さい時は、あわや大惨事っていう事故とかも何度か経験してるんだけど
大怪我したとしても、直ぐに回復してケロッと家に戻って来たのよ。
きっとね、物凄い守護人様に守られてるんじゃないかしら。」
「俺が・・・刺されれば良かったんだ・・・」
「ニノくん?何を言ってるの。智がそれを聞いたら悲しむわよ。
あなたに怪我が無くて本当に良かった。」
「でも・・・」
「それより、一度帰って着替えていらっしゃい。
智の血で汚れちゃってるし、ずぶ濡れのままだと風邪を引いちゃうわ。
それに、あなたお昼から何も食べてないんでしょ?」
「いえ・・・大野さんが心配だから、僕はここに居ます。」
そんな事を話していたら、二人の警察が俺の前に現れ、
俺とおばさんに一礼して俺に話し掛けてきた。
事件の状況を聞かせて欲しいと言われて
1時間近くその警察に口頭であの時の状況を俺は説明した。
石川はあの後逃亡したままで、まだ逮捕されていないらしい。
だけど、犯行現場を俺以外の人にも見られてるし
あの返り血浴びた格好では何処までも逃げ切れるとは思えない。
あんな奴はほっといても捕まるだろう。
だけど、あいつが捕まろうと大野さんが重症な事には変わりない。
おばさんに何と言われても、石川を追い詰めたのはこの俺だ。
大野さんにもしもの事が有ったら、俺はどうすればいいんだろう。
そして大野さんの意識が戻らないまま3日が過ぎて行った。
石川は暫く身を潜めていたけど、数日後に高層マンションの屋上から飛び降りて自殺し
なんともあっけなく事件は終結してしまった。
議員が殺人を犯して飛び降り自殺した事で世間の話題は持ち切りだった。
「ニノ、大丈夫か?」
事件の事を知って相葉さんが病院までやって来た。
「大野さんはその後意識は一度も戻らないの?」
「ああ・・・」
「そうか。でも命に別状なくて無くて本当に良かったよ。」
「うん・・・」
「もしかして、自分のせいとか思ってないよね?」
「どう考えても俺のせいでしょ。」
「ニノは悪くないよ。悪いのはあの石川って男でしょ。」
「俺は・・・大野さんを拘置所から出してあげたい一心だった。
でも、今考えるとさ・・・俺が余計な事をしなければ
大野さん、こんな目に遭わせなくて済んだのにって・・・」
「結果としてはこういう事になっちゃったけど、
でもニノがしたこと、俺がニノの立場だったとしても
きっと同じことをしてたと思うよ。ただね・・・
せめて石川が出頭するまでは出歩いちゃ駄目だったのは確かかなぁ。」
「相葉さん・・・俺どうしたらいい?
このまんま、あの人の意識が戻らなかったら・・・」
「ニノは大野さんの事好きなんでしょ?
だったら何も悩む必要はないんじゃない?
どんなに時間が掛かったとしても、ニノは大野さんの事信じて
待つしかないよ。」
「待つしかない・・・か・・・」
「そうだよ。それにちゃんとご飯食べてるの?
顔色悪いし、もうガリガリじゃん。大野さんが目を覚ました時に
そんなんじゃ、大野さんがガッカリするよ?
ちょっとそこの中華料理屋でも行こうよ。俺が奢るからさ。」
「いいよ。食欲ない・・・」
「ダメだって。ニノがそんなんじゃ大野さんを支えてやれないよ。」
「もう・・・分かったよ。」
「よし。決まりね。それじゃさっさと行ってこよ。」
相葉さんにそう言われて渋々椅子から立ち上がったその時だった。
「ニノくん!智が・・・智が・・・」
「おばさん?」
「急いで!ICUに!」
大野さんに何か異変が起きた事はおばさんのその表情から直ぐに察しが付いた。
俺は胸騒ぎを覚えながら、大急ぎでICUへと向かった。
続く