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第38話 最終話 プロポーズ
大野さんは意識を回復してから、およそ1か月で退院出来るまでになった。
とはいえ、筋力も体力も衰えてしまってたから、暫くは実家で療養することになった。
「ニノも一緒に実家に来てくれるよね?」
「そうしたいところだけど、俺は行きません。」
「な、何で?」
「俺は怪我も病気もしてないもの。このまま遊んでてあなたのご両親に
食べさせて貰うわけにはいかないよ。」
「ええっ・・・それじゃあ、おいらも実家行くのやめる。」
「ダメだよ。おじさんとおばさんに心配掛けちゃ・・・」
「ニノはおいらの言う事何でも聞いてくれるって言ったじゃん。」
「そりゃ、確かに言いましたよ。でも・・・それはちゃんと
あなたの体力が元に戻ってからですよ。」
「ニノはそれまでどうするの?」
「あ、俺?俺は、暫く松本さんの事務所でお手伝いすることに決めましたんで。」
「え?な、何で?」
「法律をね・・・勉強しようかと思って。」
「法律?」
「うん。」
「ニノが?」
「そう・・・」
「弁護士にでもなるのか?」
「弁護士はさすがに無理だけど。以前から松本さんに勧められてて。」
「ふうん・・・そうなんだ?」
「松本さんの下で勉強しながら司法書士の資格を取ろうかと思って。」
「またどうして?」
「あなたは画家って立派な職が有るけど、俺は考えてみたらさ、
高校も中退してしまって、バイトくらいしか経験無いでしょ。
バイトの収入で一生食ってはいけないもの・・・」
「おいらがニノ一人くらい食わしてやるって。」
「嬉しいけど、それはそれでどうなんだろうって・・・」
「ええっ?おいらと一生一緒に居ればいいじゃん。」
「もし別れたら?」
「絶対別れない!え?ニノは別れるかもしれないって思ってるの?」
「うふふ・・・もしもの話よ。この先さぁ、生きててどんな災難が
待ち受けてるかも分からないわけでしょ。
今回の事だってそうだけど、誰が全てを予測できた?
俺は色んな事に無知だから、法律を少しでもかじっておけば
この先の人生で何か必ず役に立つ事もあるかなって、そう思うわけよ。」
「もう事件とかおいらはゴメンだけどなぁ。」
「ウフフッ・・・そんなの俺も同じですよ。」
「じゃ、おいらとシカゴには行く話は?」
「あ、それは行くに決まってるじゃん。」
「ホントに?」
「本当だよ。それは約束する。」
「おいら、頑張って直ぐに体力回復させてマンションに戻るから。」
「うん、待ってますよ。」
それから、俺は松本さんの事務所に事務的なお手伝いを兼ねて
勉強させて貰うという日々が続いた。
週末になると俺が大野さんの実家に会いに行くという生活を繰り返し
そのまま年末を迎えた。
「ニノ、資格試験の勉強は進んでるか?」
「うーん・・・なかなかねぇ。難しくって。」
「もう、諦めておいらに養って貰ったらどうよ?」
「えーっ、ヤダぁ。そんなことしたら一生あなたに頭上がんない。」
「いいじゃんか。おいらがイイって言ってるんだから。」
「1回じゃ合格は無理だろうけど、何年掛かっても資格は取ってみせるよ!
それまではサポートお願いします。」
「んふふふ、いいよ。あ、そうそう、それよりちょっと付き合って欲しい所が有るんだけど。」
そう言って連れて来られた場所は、久々の画廊だった。
「そうか・・・ここ閉めちゃうから撤去作業もしなきゃね。」
「うん。ネットオークションでかなり引き取り先が決まったから
撤去と言っても大した事ないかも。」
「あ、そうなんだ?」
「残った絵は全てシカゴに送るしね。」
「これはどうするの?」
真理さんの肖像画を指差して一応聞いてみた。
「あっ、これね?これ、今から真理さんのお母さんが受け取りに来てくれるの。」
「えっ?本当に?」
「うん、一度は断られたんだけどね。今回の事で、お詫びがしたいって
連絡貰ったんだよ。お詫びとか良いから、この絵を貰って欲しいって
お母さんにお願いしたら、快く承諾してくれてね。」
「へえ・・・良かったじゃん。」
「うん。」
「真理さんもようやく実家に戻れるんだね。」
「ああ・・・」
だって、この絵がキッカケで色んな事が有ったものね。
俺も大野さんも・・・
だけど今では感謝してるよ。
真理さんが結んでくれた縁でも有るわけだし。
その後直ぐに真理さんの家族が画廊にやって来て、
中央に飾られた真理さんの肖像画を引き取って帰って行った。
「さ、そろそろ我々も帰りましょうか?」
「うん。ニノ・・・」
「え?」
いきなり大野さんが俺の腕を掴んでギューッと胸の中に抱き寄せた。
ふんわりとした大野さんの匂いに包み込まれて
俺も大野さんの背中に腕を回して彼の事を抱き締め返した。
「な、何?いきなりどーしたの?」
「おいらはニノが好き。」
「えっ・・・うん。俺も好きですよ?」
「結婚しよ・・・」
「あ・・・えっ?」
「クリスマスに届けに行くつもりだったんだけど・・・
今日になっちまった。これ、書いてこれから役場行こう。」
「ええっ?」
大野さんが差し出したのはパートナーシップ制度の
いわゆる婚姻届みたいな用紙だった。
もうしっかり達筆な字で自分の書き込む欄のところは埋めてあった。
そして、その用紙と一緒に渡されたのは、お互いのイニシャルが刻まれたシルバーリングだった。
12月28日・・・俺達の一生忘れられない特別な日となった。
俺の両親への報告とか、諸々は後回しになっちゃったけど
特に周りから反対されることもなく、俺達は正式に夫婦となった。
それから3か月後、俺達は家族に見送られシカゴへと旅立った。
まだまだ二人でやりたいことも見たい景色も山ほどある。
俺達の人生はここがスタート地点だなって思う。
俺達の未来は期待と希望に満ち溢れていた。
THE END