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第7話 心の変化

 

 

それから大野さんは静かに俺の話を聞いてくれた。
バイトを辞めた事、幻聴幻覚の症状が出てる事、将来への不安・・・
何もかも洗い浚い話した事で気持ちが楽になった。

「そんなに辛い想いをしてたんだ。無理も無いよ。事件に巻き込まれただけでも精神的なショックは計り知れないってのに
世の中の人に真相までいちいち説明もしてられないんだものな。周りが全部敵に見えても仕方ないよ。」
「うん・・・だけど仕事しないとそのうち飯も食えなくなるし・・・」
「まぁ、もう暫くは休んでていいんじゃない?何も焦らなくても、まだまだ年齢的には若いんだし。」
「はあっ・・・そうだけど、そうも言ってられなくて。俺、高校の途中で拘置所に入れられたでしょ。
貯金とかほんっとに無くって。」
「・・・そんなに沢山の給料は払えないけど、良かったらうちで働いてみる?」
「えっ?」
「おいら、実は小っちゃい画廊を開いてるんだ。」
「画廊?」
「そう。」
「あなた経営者だったの?」
「経営者だなんて、そんな大げさな話じゃないよ。ただの絵描き兼バイヤーってところかな。」
「若いのに凄いな・・・大野さんってそういえば幾つ?」
「もう直ぐ23歳になる。」
「えええっ?俺より3つ上なんだ?同い年かと思ってた。」
「受付と案内を丁度探してたんだ。良かったらやってみないか?」
「いいの?俺、絵画とか全然分かんないよ?」
「いいよ。専門的な事は分かんなくても。大まかな事はおいらが教えるから。」
「ホント?本当に俺なんかでいいの?」
「んふふ・・・いいよ。」
「わぁ、嬉しい。ありがとう、大野さん。」
「何時から働く?」
「もう、明日からとかでも全然大丈夫です。」
「まだ無理はしない方がいいと思うけど。身体も万全じゃないんだし。」
「ええっ・・・でも暇を持て余してる方が精神的に不安なんだけど。」
「それじゃ、今日は月曜だから今週末辺りからにするか?」
「あ、はい。是非お願いします。」
「あ、それよりさ、スーツ持ってる?」
「スーツ?」
「うん、一応画廊だから服装はキッチリして欲しいんだよね。
持ってないなら、おいらのを貸すから。」
「就活もまともにしたことないから、リクルートスーツも持ってなかったな。」
「ちょっと待ってて。背格好同じくらいだから、おいらので合うと思うんだけど・・・」

そう言って、大野さんは部屋にスーツを取りに行った。

「ね、これ一度試着してみてよ。」

ダークグレーのスーツを持ってきて、俺に差し出した。

「あ、うん。」

俺はその場でそのスーツに着替え始めた。
そしたら大野さんが俺を見てクスクス笑い始めた。

「え?何?」
「あっ、いや・・・んふふっ・・・ごめん・・・」
「何?気になるじゃん!」
「だって・・・パンダの柄のパンツって(笑)」
「あっ、これ?可愛いでしょ?このシリーズ他にも3枚持ってるの。俺のお気に入りです。」
「ふはははっ・・・」
「酷い!人のお気に入りをバカにするなんて、幾ら大野さんでも許せないよ!」
「べつに馬鹿にしてるわけじゃないよ。んふふっ・・・可愛いなぁと思って。」
「えっ///」

大野さんから可愛いって言われて胸がキュンとなった。
俺は訳が分からずドギマギしながら、さっさとスーツに着替えた。

「おっ、やっぱピッタリだな。ちょっとジッとしてて・・・」
「え、あ、は、はい。」

大野さんはそれに合うネクタイを俺の首に掛けると、手際よくそれを結んでくれた。
めちゃくちゃ至近距離に大野さんが居るから、妙に緊張して身体が硬直する。

「んふふふ・・・良く似合ってる。めちゃめちゃイケメンに仕上がったよ。」

そう言ってニッコリ笑うと、俺の手を引いて鏡の前に連れてかれた。

「どう?」
「本当にピッタリだ。何処もサイズ直さなくて平気だね。」
「それ、就職祝いにおいらからプレゼントするよ。」
「え?い、いいですよ。これ高そうだし・・・」
「お古じゃ嫌か?なら明日新品買いに行く?」
「あ、嫌とかそういうんじゃなくて。これで十分なんだけど。」
「お古と言っても1回しか着てないから。」
「いいの?」
「うん、あげるよ。」
「俺、なんて御礼を言ったらいいか・・・」
「御礼なんていいよ。」
「でも・・・何から何まであなたに甘えてしまって・・・」
「あ、それじゃあさ、一つだけ条件付けてもいいかな?」
「えっ?」
「仕事慣れるまで、ここから画廊に通ってよ。」
「はっ?」
「何か心配なんだよね。今日みたいな事が今後も無いとも言えないしさ。
そうしなよ。居心地が悪いって言うなら話は別だけど。」
「で、でも・・・それじゃあなたに迷惑が・・・」
「あ、勿論家事も手伝ってよ。そうすりゃおいらも助かるし。」
「な、なんで?そこまでしてくれるの?」
「うーん・・・何でだろう?君が、おいらのタイプだから?」
「えっ?///」
「なーんちって(笑)弟みたいに可愛いから・・・かな。」

一瞬ドキッとした。でも、弟みたいと言われてちょっとショックだったのも事実。
だって、俺は自分の心の変化を明らかに自覚し始めていた。

 


続く

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投稿者: 蒼ミモザ

妄想小説が好きで自身でも書いています。 アイドルグループ嵐の大宮コンビが特に好きで、二人をモチーフにした 二次小説が中心のお話を書いています。 ブログを始めて7年目。お話を書き始めて約4年。 妄想小説を書くことが日常になってしまったアラフィフライターです。

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