truth
第9話 賠償責任
家に戻ってもさっきの失敗が気掛かりで仕方ない。
大野さんは気にしなくても良いと言ってくれたけど、
270万円って損害額はちょっと冗談でも笑えないレベルのミスだ。
かと言って、今の俺に賠償責任を負える蓄えもなければ
仕事自体雇われてる立場だから、そんなの給料から差し引くと言われても
完済するまでに一体何年掛かるかって話になってくる。
このまま悠長に画廊勤めしていては損害金を支払う目途も立たない。
残念ではあるけど、早急に稼げる働き口を見付け直す必要があるなって考え始めたら
凄く憂鬱になってきた。
決して働くことが嫌だというわけじゃない。
せっかく大野さんと仲良くやれてたのに、精神的にも落ち着いてきてたのに
あの人と離れなきゃならなくなる。それが凄く不安なんだと思う。
「あ、あの・・・大野さん?」
「ん?どうした?」
「俺、やっぱり画廊は辞めようと思うんだ。」
「えっ・・・何で?」
「今日みたいなミス、やっぱりゴメンで許される事じゃないよ。」
「あー、そのことか・・・」
「うん、だから俺辞めて別の仕事探してあなたに損害金を返す。」
「辞めるのはいいけど、辞めて行く宛てなんかあるの?」
「これから探すつもりだけど・・・」
「俺は損害金を払ってとかひと言も言って無いよ?」
「駄目だよ。だって金額が普通じゃないもの。」
「分かったよ。ニノが納得いかないんだったら、損害額は支払って貰う。
但し、うちの給料から天引きでね。」
「そ、それじゃあ何年掛かるか分からないじゃん。」
「ずっと居てくれたらいいよ。」
「そんな・・・」
「おいらと仕事するの嫌?だったら無理には引き留めないけど。」
「嫌だなんて・・・」
「だったら、もうこの話は終わりな。」
「で、でも・・・そんな簡単に済ませられる金額じゃ・・・」
「そっかぁ。そうだな・・・そこまで悪いと思ってるなら、身体で払って貰おうかな(笑)」
「えっ?」
「ははははっ、冗談だよ。」
大野さんはああ言ってるけど、実際には大損害を被ったわけだから
笑ってる場合じゃないはずなんだ。
ここに住まわせて貰ってるのだって、経済的には負担になってるだろうし
優しいから絶対言わないだろうけど、内心では
俺の証人を引き受けてしまったばっかりに、とんだ疫病神に取りつかれちゃったって思ってるんじゃないかな。
大野さんは俺に寝室を明け渡して、自分はリビングのソファーで毎日寝てるし
家事を俺にお願いするとか言ってた割には実際は大野さんが殆ど何でもしてくれてるし。
ここまで甘やかされると、さっきの言葉はひょっとして冗談じゃないのかな?と
俺は勘違いしてしまう。
「身体で払う」の意味・・・
大野さんは俺に特別な感情でも抱いてくれてるからここまでしてくれるんじゃないかと
俺は勝手に思ってしまう。
「ふあああっ・・・そろそろ寝るか。」
水割りを飲みながらリビングで一緒にテレビを見てた大野さんが
大きなあくびをしながらソファーに寝転がった。
俺はテレビを消して、ソファーから立ち上がる。
「おやすみ・・・」
「お、おやすみなさい。」
俺も寝室に戻ってベッドに横になるけど、さっきの言葉がずっと頭から離れずに寝付けない。
大野さんは恩人だし、一緒に居るだけで癒されるし、ずっとこのまま画廊で働きたいって
思うのは俺の本心ではある。
だけど、だからといってあの人の優しさに甘えてばかり居るのはどうなんだろう?
俺はベッドから身体を起こすと、もう一度大野さんの寝てるリビングへと向かった。
そして、部屋の灯りをつけて大野さんの寝てるソファーの真横に立った。
「・・・んっ?」
「大野さん・・・」
「な、何?」
大野さんは目をごしごしと擦りながらソファーから起き上がって驚いた表情で俺を見た。
「どーした?眠れないのか?あっ、怖い夢でも見ちゃったか?」
「大野さん、俺・・・やっぱ・・・身体で払います!」
「はっ?えっ?」
「俺のこと・・・好きにしていいよ。」
続く